場違いな騒動では?

いよいよ昨日から日本シリーズが始まりました。

初戦はソフトバンクが先発千賀投手の好投と、打線の爆発で10対1と圧勝。「ソフトバンク強し」の印象を強くファンに焼き付けました。

とはいえ横浜もポストシーズンに入ってから、序盤の劣勢を跳ね返し、アドバンテージをものともせずに勝ち上がって下克上を成し遂げているだけに、今後の戦いぶりは予断を許しません。

きっとシリーズならではの緊張感のある熱戦がこれからもつづくことでしょう。

ところで、シリーズの熱気にあふれかえるヤフオクドームをよそに、グラウンド外では今、クライマックスシリーズの是非が熱い議論となっています。

毎年のように、このテーマはくすぶり続けてきましたが、今回セ・リーグは2位の阪神に10ゲーム差をつけて圧勝したカープが、その下の3位チームに敗退して出場権を失ってしまったためにファンの不満と関係者の疑義が噴出し、燠火に油を注いだような様相を呈しています。

もちろんプロ野球は興行として始まったのですから、その目的のために最善の方法を模索するのは当然のことで、その結果としてクライマックスシリーズの導入が決まったわけです。

ただ、この興行優先の制度とプロ野球の理念は必ずしも一致するものではなく、どうしてもこのような問題が生じてしまいがちです。

シーズンの消化試合が減少し観客動員が見込めるというメリットの代償として、リーグ優勝の価値が下がる。また日本シリーズの意味そのものが失われるという、プロ野球の根幹を揺るがしかねない問題をCSははらんでいるのです。

かつて1リーグ時代と、パ・リーグで1973年から、前後期の2シーズン制の時代がありましたが、これも制度と理念との間で破綻して10年で廃止になっています。

クライマックスシリーズに関しては、ロッテがパ・リーグ3位から勝ち上がって、そのまま日本シリーズを制したことがありましたし、セ・リーグでも2位の中日が優勝したことがありました。

リーグ優勝していないチームが日本一の称号を得る、という椿事が持ち上がったのです。

さすがにこんなことが例年のように繰り返されていたら、CSはとうに廃止になっていたでしょうが、確率的に少なかったし将来も頻出はしないだろうという楽観的な“性善説”によって現制度が維持されてきたというべきでしょう。

どう考えても「やばい事態」なにる可能性は否定できないわけで、今回もそれが顕著な形で現れてしまいました。

なので問題があらためて浮き彫りになって議論になっているのは不思議でもなんでもないのですが、それが日本シリーズたけなわの今、グラウンドの外で声高に叫ばれているような状況はどうなのでしょうか。

ソフトバンクも横浜もお互いにしのぎを削って戦っているわけで、その真摯な戦いの熱気に水を差すような騒動は、厳に慎むべきではないでしょうか。

現行の約束事の中で、精一杯戦って勝ち上がった横浜の選手たちに、これほど失礼なこともないでしょう。

議論するなら日本シリーズの決着がついて、勝者敗者それぞれが結果を受け止めてからでも遅くはないでしょう。

ここ最近、どこのスタンドでも目撃するようになった時と場所をわきまえないような狂騒のような応援ぶり。

その現象が、今回のこの騒動に重なって見えて仕方がありません。

校長代理 堀 治喜

バングバー野球便り
「トロントの4万人より熱いバンクーバーの6000人」

カナダの国民的スポーツといえば「アイスホッケー」。
NHLのナンバーワンを決めるスタンレーカップの時期には、どこもかしこもアイスホッケー一色。
レストランやバーなどでスタンレーカップの話を聞かない日はないぐらいの盛り上がりを見せる。
「広島県人は皆カープファンである」のと同等レベル、いやそれ以上にカナダ人のアイスホッケー愛は強いのだ。

そんなアイスホッケーのイメージが強いカナダだが、それ以外にも野球、サッカー、テニス、アメリカンフットボール(NFLとは別にCFLというカナダのアメフトリーグがある)、ラグビー、またカナダ発祥と言われているラクロスなど様々なスポーツが人気だ。

以前「Being Canadian」という「カナダ人である事」にスポットをあてたドキュメンタリー映画を見たのだが、その中で「カナダ人はカナダ人を見ると共感したがる」という旨の証言が紹介されていた。

どういう事かというと、例えば映画を見ていて出演している俳優がカナダ人だと分かると「Oh!! He is Canadian!!(彼はカナダ人なんだぜ)!」と人に伝えずにはいられない。外国の旅先などでカナダ人に出会うと初対面であっても、久しぶりに昔の友達に出会ったかのように接するのだ。私がカナダに来て凄く感じたのは「カナダ人はカナダが大好き」という事。(私自身、これほど日本を愛しているだろうか?とちょっと反省したくなる程。)
そのためかスポーツに関しても、地元愛がとても強いなと感じる。

MLBに所属しているチームはカナダではトロント・ブルージェイズ1チームのみ。そのブルージェイズ傘下のシングルA(シーズンが6月〜9月と短い事からショートAとも呼ばれている)で、私が住むバンクーバーに本拠地を置くバンクーバー・カナディアンズというチームがある。

このバンクーバー・カナディアンズのホームグラウンド、ナット・ベイリースタジアムは2015年に妻夫木聡主演で話題になった映画「バンクーバーの朝日」で登場する日系移民野球チーム「バンクーバー朝日」がプレーした球場でもあり、球場の外壁にはバンクーバー朝日の勇姿も描かれている。

2011,2012,2013年にノースウェストリーグで優勝したものの、2014年に決勝戦に進んだ以降はプレーオフに進めなかったバンクーバーカナディアンズだが、マイナーリーグにも関わらずゲームのチケットは連日完売。その観客の声援に応えるかのように、今年は3年振りにプレーオフ進出を決めバンクーバーでは更に盛り上がっている。

このバンクーバーカナディアンズ、選手のほとんどはカナダ以外の国から来ている選手たちで、試合中、ベンチ近くに座っていると選手たちの間で英語以外の様々な言語(ドミニカ共和国やベネズエラの選手が多いことから特にスペイン語)が飛び交っている。

私の取材仲間のチリ人によると、選手たちは観客がスペイン語が分からないだろうと思い、結構言いたい放題言ってて面白いそうだ。この歳になって勉強するとは思わなかったが、会話が分かったら面白そうだし、動機は不純だが、これを機にスペイン語を勉強しようかなという気持ちにさせられた。

この、カナダ以外から来ている選手たち、シーズン中はバンクーバーのホストファミリーの家に滞在しているそうだ。彼らは野球だけでなく、言葉や習慣を学び ”家族の一員” として過ごすのだ。

この「ファミリー感」、ホストファミリーに限った話ではなく、実はシーズンが始まる時にマネージャー(監督)のRich Millerに話を聞いた時にも触れていて、私はその話を聞いて泣きそうになったことを覚えている。

彼はこう語っていた

「ほとんどの選手、例えばドミニカから来ている選手達などは自国では最大でも400〜500人入れば満員の球場でしかプレーした事のない若い子ばかりだ。それが、この球場へ来て6000人を超える観客を前にプレーするんだから、その違いに怖気付き、緊張するに違いない。
でも、私は選手たちに言ったんだよ。例え9-0で大負けしたとしても、ここに来るお客さんたちは、それでも君たちを応援することをやめないって。
それだけ、ここに来る人たちは野球が大好きでなんだって。
トロント(ブルージェイズ)の観客4万人と、ここの6000人、どっちが熱いか、きっと君達は肌で感じることになるよってね。」

私がカナダに移住して来てからずっと感じていたことを代弁してくれたかのように思えた。移民が多いからじゃない?という意見もあるだろうが、
私はカナダに移住して以来、Rich Millerが言っていた「人の熱さ」を肌で感じることがある。住んでいる長さは問題じゃない。この「熱さ」に触れたら、もうファミリーなんだよって言われている気がした。

さぁ、、、また「ファミリー」の待つBall Gameに行こう。

文・写真 ガスコット清美